TECNOが1~9倍の連続光学ズーム技術を発表したので仕組みを解説!

中国のTranssion社がTECNOブランドから、1つのカメラだけで1〜9倍の連続光学ズームを実現する新構造を発表しました!一般的なスマホは、多レンズ構成の複数単焦点+デジタルズームでズーム域を稼いでいますが、TECNOは1つのレンズで1〜9倍をすべて光学ズームできるのがポイントです。

本記事では最終的にこの仕組みを説明するために、まずはズームの基礎から整理していきます。

ズームの基本

そもそも、コンデジなどの光学ズームに対応したカメラはイメージセンサーからレンズまでの距離を物理的に前後させることで光学ズームを実現しています。虫眼鏡を前後に動かして拡大する動作を想像するとわかりやすいと思います。物理的に前後させる必要があるので縦のスペースがその分だけ必要になります。

それをスマホに搭載しようとしたGalaxy S4 zoomのような製品も過去にはありましたが…

▼ご覧の通りカメラ部分が大きく飛び出しており、携帯性の面で厳しく、主流にはなりませんでした(見た目は中々にワクワクするんですけれどもね…)。↓

そのため、現在販売されているスマホたちはカメラの数を増やし、複数の単焦点を確保することで望遠や広角などに対応しています。

例えば、iPhone 17 Pro/Pro Maxですと

  • 超広角カメラ:17mm
  • 広角カメラ:24mm
  • 望遠カメラ:100mm

の3つのカメラを搭載しています。これだけでは0.7倍、1倍、5倍の3つでしか撮影できませんので、センサーの一部をトリミングするクロップズーム(光学相当ズームや光学レベルズームと呼ばれることもある)や、画像を引き伸ばすデジタルズーム(AI補正含む)を駆使し、なんちゃってズームをおこなうことで、広範囲の倍率をカバーしています。

  • 17mm、24mm、100mmの光学ズーム
  • 48mm、200mmのクロップズーム
  • 18~23mm、25~47mm、49~99mm、101~199mm、201~960mmのデジタルズーム

しかし、そのほとんどの倍率はトリミングや補完で見かけ上の倍率を稼いでいるに過ぎません。そのため解像感はどうしても落ちてしまいますし、本来の意味でのズームとは言えません。

今回発表された技術の仕組み

今回TECNOが発表した”TECNO Freeform Continuum Telephoto”は従来の問題を解決し、1つのモジュール、1つのカメラで1~9倍すべての倍率で真のロスレス光学ズームを実現するとのことです。

プリズムで光を屈折

▼スマホとしての薄さを維持するためにはGalaxy S4 zoomのように厚みを増やすわけにはいかないので、外から入った光をプリズムで90度屈折させます。↓

▼このようにプリズムを利用して屈折させる方法はペリスコープ(潜望鏡)型望遠として既に浸透した技術で、薄型化を実現するために不可欠な技術になっています。↓

▼余談ですが、3回屈折させるW型プリズムなんてのもあったりします。↓

可動するレンズ

焦点距離を変えるにはイメージセンサーからレンズまでの距離を変更できるようにする必要があります。

▼レンズ(赤枠の部分)を前後に動かし、焦点距離を変化させます。従来の連続光学ズームに対応したモジュールでは、これに非常に多くのスペースを必要とし、その結果モジュールが大型化してしまいます。↓

▼実際、連続光学ズーム機構を搭載したXperia 1 VIIではスペース確保の都合上か、1/3.5″センサーの12MPと豆粒サイズになってしまっています。他社のカメラハイエンドスマホの望遠カメラが1/1.5″~1/2″あたりであることを踏まえるとかなり見劣りします。↓

アルヴァレズレンズ(Alvarez lens)

▼TECNOが今回発表した仕組みでは、従来の前後に可動するレンズだけでなく、アルヴァレズレンズ(赤枠の部分)という特殊なレンズが2組追加されています。↓

▼アルヴァレズレンズは、 ) のような形の一般的なレンズとは違い、 ≀ のような自由曲面を描く特殊な形状になっています。↓

▼レンズの場所によって厚さや曲率が違うため、2枚のレンズを横にずらすと光が通る厚みの組み合わせが変わり、焦点距離を変化させることができます。↓

▼最初の位置よりも厚くなっている。↓

2枚を光軸と垂直方向に数mmスライドさせるだけで、焦点距離を大きく変えられるのが最大の特徴です。

この仕組みについて詳しく知りたい方は、発案者のアルヴァレズ氏が出願した特許(期限切れ)US3507565Aをご確認ください。

▼このアルヴァレズレンズを組み合わせることで、1~9倍の広範囲をカバーしつつ、大幅な小型化に成功したとのこと。↓

先ほど例に上げたXperia 1 VIIの望遠カメラは3.5~7.1倍、つまり望遠カメラ内では約2倍の連続光学ズームを実現するためにあのサイズを要していたのですから、1~9倍をこのコンパクトサイズで実現できるのであれば、かなり凄いですね。

まとめ

モジュール自体も小型ですし、メインカメラと望遠カメラが1つで済むので大幅なスペースが確保できます。これにより大型のセンサーを搭載できたり、バッテリー容量の増加が見込めたり…などなど夢が広がりますね。

メインカメラと望遠カメラが1つのカメラにできるにはもうひとつメリットがあります。それは倍率によって色が変化しないことです。

同じスマホなのに、ズームしたら若干色味が変わってしまった、そんな経験ありますよね。メインと望遠を別カメラで分ける既存の構成ではこのズレが起きてしまいますが、1つのカメラで1〜9倍をカバーできれば、倍率による色味やホワイトバランスの変化が出にくくなります。

▼空や左側の壁がわかりやすいですが、メインカメラ(左)と望遠カメラ(右)で色が若干異なっています。↓

Transsion社は主にアフリカや中東をメインターゲットとしており、日本未上陸でもあるため馴染みのないメーカーだと思いますが、三つ折りスマホやディスプレイが伸びるローラブルスマホのコンセプト機を発表しているなど、技術に関してはかなり先進的な企業です。ついにTranssionがやってくれたか!って感じ。

もちろん現時点ではコンセプト段階ですから、複雑な機構による高コスト化、故障率、安定性などにより搭載機が販売されない可能性も頭に入れておく必要があります。

若干マンネリ化気味のスマホカメラに大きな変化をもたらすでしょう。

いやー、これは楽しみですね!

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